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「けものフレンズ」の構成などを考えてみる

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「けものフレンズ」の構成などを考えてみる

TVアニメのドラマ構成について、以前に以下の記事を書きました。

「ガルパン」を題材にアニメのドラマ構成を考えてみる その一

「ガルパン」を題材にアニメの構成を考えてみる その二

その延長で「けものフレンズ」のドラマ構成などについても考えてみようと思います。
以下は、既に全話を観ていることを前提に書いてあります。


第一幕
「けものフレンズ」は、主人公かばんの自分探しの物語です。
ただし物語での「自分探し」とは、「自分についての知識や情報」を手に入れること自体がゴールな訳ではありません。むしろ物語の過程で経験を積んで、これからどう生きていくのかを決定できるようになることこそが主題なのです。

さて、三幕構成に当てはめて考えてみると、第一話の終わり近くでかばんがサーバルと別れて一人で歩いていく場面が第一の転換点(ターニングポイント)にあたります。ここで主人公が、自分の意思で物語上の目的に向かって行動しはじめたと理解できるからです。

「けものフレンズ」では第1話で第一幕を済ませていますが、一般的にこれはよいやり方だと思います。
アニメによっては二十数分ではちょっと尺が足りなくなって第2話で少し補足しなければならなくなることがあるのは仕方ないと思いますが、第一幕で丸々2話以上使う構成は好きではありません。
たまに第1話だけ一時間枠にする作品もありますが、有名原作付きでエピソードを削れないなどの事情があれば仕方ないとは言え、あまりいいとは思いません。
2クール以上あるからという理由で第一幕を長くするのも上手くないと思います。
とにかく物語を早く転がしはじめて、必要な情報は第二幕で提示していった方が視聴者を惹きつけられるはずです。


第二幕・前半
さて、第二幕こそが物語の中で一番長い部分であり、ここをどうやって魅力的に構成するかが作り手の腕の見せどころでもあります。
複数の小さなドラマを入れて話に起伏を作るのが有効なやり方ですが、「けものフレンズ」では、1話が一つのエピソードという形式を採っています。

1話=1エピソードで構成すると、定型反復による安心感、安定感が生まれます。
これは「けものフレンズ」の穏やかな雰囲気には合っていますが、同時に次回への「引き」が弱くなるという側面もあります。
例えば「ガールズ&パンツァー」では、日常と試合とを交互に描いて物語が進行しますが、エピソードが回をまたぐように構成して次回への「引き」を強くしています。

それに対し「けものフレンズ」では、作品の舞台が一体どのような世界であるのか知りたいという視聴者の好奇心を上手くかき立てることで「引き」にしているのが特徴と言えます。
それを支えているのは、余計な説明はしないという作品のスタイルです。

登場人物は自分たちが生活する世界を当たり前のものと見なしているので、説明的な台詞はほとんど言いません。(第7話で登場する博士と助手も、有りがちな「説明役のキャラクター」ではありませんでした。)
そこで視聴者は、登場人物人物同士のやり取りと画面に描かれたものから設定を「読み取る」ことになりますが、これは「説明される」よりずっと面白いのです。

もう一つ上手く機能しているのは主人公に記憶がないという設定です。
作品の舞台となる世界のことを知らない視聴者は主人公に近い視点で物語を見ることができますが、主人公の視点に完全に重なることもありません。
主人公は現実世界のことも知りませんから、視聴者の完全な分身というわけでもないので、「何でこう動かないんだ」というような視聴者の不満は起きにくい構造になっています。
何も知らない主人公は「ジャパリまんはどこで作られているのか」といった疑問を性急に口にすることはありません。そのお陰で、視聴者は主人公の旅を眺めながら、ゆっくりと作品世界について知るという愉しみを味わえるのです。

また、第9話で出た「ハンター」という言葉に説明がなく、第11話になってハンターたちが登場するというように、「存在を示唆されていたものが旅を続けると姿を現す」
という見せ方も、世界の広がりを感じさせます。


第二幕・後半
ドラマ構成上の中間点(ミッドポイント)は第7話と解釈します。
主人公はヒトであると明言されますが、そのことは「自分探し」の答えにはならないことがはっきりしてくるわけで、大袈裟に響くかもしれませんがそれが主人公の危機です。
やや番外編風である第8話は除くとしても、主人公の旅の目的が(とりあえずの目的地は示されるとは言え)曖昧になり、物語の行方に些かの不安を覚えるようになります。

特に第10話では、ヒトが住むのに適した「ちほー」を見つければそれで済むと思っているサーバルと、パークの外に出てでも自分のアイデンティティを見極めたい主人公との対比によって、主題が強調されています。

第二の転換点(ターニングポイント)は、第11話。
かばんが羽根の二枚揃った帽子を被って、ジャパリパークとそこに住むフレンズたちの為に行動すると宣言する場面です。
「自分が何者であるか」という問いに対して、「自分はどう生きるのかを示す」ことで決着がつけられます。後の第12話でかばんの出生の秘密が明かされますが、仮に正体が別のものだったとしても、ドラマには影響を与えません。

主人公はラッキービーストによって暫定パークガイドに任命されることで、象徴的に生まれ変わります。(まさに成長の物語なのです。)
そこでキーアイテムになるのが羽根の二枚揃った帽子なのですが、ここで大事な役割を果たすのが第1話から主人公を帽子泥棒と思って追いかけてきたアライグマのアライさんというキャラクターです。

帽子泥棒だと思っていた相手が、実は旅の折々でよい評判を聞いて自分も尊敬していた「かばんさん」だったことを知って、アライさんは帽子を引き渡します。
この帽子は「パークガイドに相応しい人物」を示す意味あいを帯びていますが、それを受け取る権利は「主人公がパークのフレンズたちを手助けしてきた」という事実が元になっています。
そして、アライさんは図らずも裁定者としての役割を(トリックスター的に)演じていることになります。


第三幕
第二の転換点で自分の進むべき道を決めた主人公は、島の外に出るための船を犠牲にしてフレンズたちを助けることを選びます。

かばんという主人公には、強みと弱みとが上手く設定されています。
主人公の強みはヒトとしての知恵で、これを使って毎回の問題を解決してきました。他方の弱点は、臆病さと(他のフレンズと比較しての)身体能力の低さです。

第11話で登場した大型セルリアンに対して、主人公が知恵を使って立てた作戦は有効でした。
しかしその作戦でセルリアンを倒すことはできても、セルリアンに取り込まれたサーバルを救うことはできないというパラドクスに直面します。
知恵だけでは解決できないこの状況に対して、主人公は自分の弱点である臆病さと身体能力の低さを克服する行動を示して、その人間的成長を見せます。

そして最終話で主人公の選択の結果とその後が描かれます。


まとめ
形式的に区分けしてみると、意外に第二幕後半が長いことに気づきました。
第二幕後半は大まかに言って主人公の苦境パートですが、あまり苦境を強調していないので視聴者へのストレスは小さくなっていると思います(不穏な雰囲気は出ていますが)。

物語に大きな起伏がないままほのぼのと進行して、終盤で深刻な事件の発生と解決を描いて終わるところ、同時に序盤から背後に不吉なものが流れ続けているところ、作品世界の不思議な面がだんだんと明かされていくところなどが、ちょっと「となりのトトロ」にも似ているようにも思いました。
もちろん似てないところも色々ありますけど。

「けものフレンズ」について書こうと思ったのですが、なかなか考えがまとまらず、だいぶ時間がかかってしまいました。どういう切り口で書くか迷ったのですが、とりあえず構成を中心に考えてみました。
書き残したことがある気分ですが、思いついたらまた何か書いてみます。

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