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『テヅカ・イズ・デッド』再読(1) キャラ/キャラクター

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『テヅカ・イズ・デッド』再読(1) キャラ/キャラクター


 伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』(NTT出版)を再読します。

 とてもいい本なのですが、「キャラ/キャラクター」という用語に混乱する人もいるようです。この少々わかり難い「キャラ」と「キャラクター」の概念を確認しておきます。

 まず伊藤剛は、漫画の基本的な三要素「絵」「コマ構造」「言葉」(斎藤宣彦による)を、「キャラ」「コマ構造」「言葉」の三者に置き換えます。
 漫画の基本要素として「絵」ではなく「キャラ」としたことの当否はともかく、ここから「キャラ」という概念が「コマ構造」や「言葉」と結びつく以前の図像のレベルのものであることがわかります。

 しかし、すべての図像が「キャラ」ではありません。伊藤剛は「キャラ」に次のような定義を与えています。

多くの場合、比較的に簡単な線画を基本とした図像で描かれ、固有名で名指しされることによって(あるいは、それを期待させることによって)、「人格・のようなもの」としての存在感を感じさせるもの

 この定義は、図像一般の中から「キャラ」を掬い出し、「キャラ/非キャラ」に分節するものと考えられます。

 では、「キャラクター」の方はどうでしょうか。

「キャラクター」とは、「キャラ」と他の二要素(コマ構造、言葉)との緊密な関係としてはじめて立ち現れるもの

 という説明を「キャラクター」に対して、伊藤は与えています。
 これにより、「キャラ」とは図像レベルのもの。「キャラクター」は「キャラ」、コマ構造、言葉の三者が総合したレベルのもの、という区別が立てられます。

 その上で、伊藤は「キャラクター」に対して次の定義を与えます。

「キャラ」の存在感を基盤として、人格を持った「身体」の表象として読むことができ、テクストの背後にその「人生」や「生活」を想像させるもの

 「キャラ」として描かれていても、この定義を満たしていないものは「キャラクター」ではないということになります。ここで「キャラ」は、コマ構造や言葉との結びつきによって、「キャラクター/非キャラクター」に分節されるわけです。
 わかり難いのは、コマ構造や言葉と結びつきながらも「キャラクター」の基準を満たさなかったもの(非キャラクター)が、「キャラ」と呼ばれていることです。水準の異なる二種類の概念に、同じ「キャラ」という名が与えられているのです。
 便宜上、「キャラ1」「キャラ2」という名称を与えて図示すると次のようになります。

[水準2] キャラクター   /非キャラクター(キャラ2)     …キャラ・コマ構造・言葉の関係
[水準1] キャラ(キャラ1)/非キャラ(キャラではない図像)  …図像

 夏目房之介が「ユリイカ」誌上で、少なくとも二つの「キャラ」概念がある、と指摘していたのは、おそらくこのことだと思います。
 『テヅカ・イズ・デッド』を読む際には、この二種類の「キャラ」概念に注意する必要があります。例えば第5章で、「ぼのぼの」の主人公ぼのぼのや「GUNSLINGER GIRL」の登場人物トリエラを「キャラ」としているのは、「キャラ2」の意味でしょう。

 伊藤の定義の与え方が、まず図像一般から「キャラ」概念を掬い出し、次にそこから「キャラクター」概念を掬い出すという手順になっていることが、「キャラ1」と「キャラ2」を区別しない直接の原因となっています。
 あるいは伊藤剛は、「キャラ1」と「キャラ2」を(上記のような区別ができることを踏まえた上で)連続的なものと捉えているのかもしれません。
 「キャラクター/非キャラクター(キャラ2)」の明確な境界線はおそらくない。そして「身体」や「人生」を欠く「キャラ2」は、容易に図像レベルの「キャラ1」に移行しうる。そんなイメージで捉えているように思えます。

 さて、「キャラ/キャラクター」と似て非なる概念として「マンガのおばけ/ウサギのおばけ」があります。これについても検討していくつもりです。
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